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名誉毀損罪

ネット上における名誉毀損罪とは

名誉毀損罪は、公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した場合には、その事実の有無にかかわらず成立し、3年以下の懲役若しくは禁固又は50万円以下の罰金となります(刑法230条1項)。名誉毀損罪は親告罪です(刑法232条)ので、犯人を知ってから6カ月以内に告訴しなければなりません(刑事訴訟法235条1項柱書本文)。
名誉毀損罪は、公然と事実を適示し、人の名誉を毀損した場合に成立します。
「公然」とは、不特定又は多数人が認識しうる状態をいいます。

ブログや掲示板等に掲示した表現は、ホームページ等インターネット上に掲載することにより不特定多数のインターネット利用者が閲読可能な状態になっていることから、不特定又は多数人が認識しうる状態にあるので「公然」にあたります。
「事実」は人の社会的評価を低下させるに足る具体的なものである必要があります。「○○はおろかだ」といった表現は人に対する価値判断であり形容する表現なので、「事実」にあたらず、侮辱罪の対象となります。これに対して、「○○は不倫をしている」という表現は、不倫をしているという状態を表す事実であり、具体的なものなので「事実」にあたります。なお、事実が真実であるかを問わないので、実際に不倫しているか否かは問われません。
「名誉を毀損した」とは、人に対する社会的評価を害することをいいます。 「不倫」であれば、背徳行為を行っているものとして人の社会的評価を低下させるものなので「名誉を毀損した」といえます。

しかし、名誉毀損にあたるとしてもその事実を伝える必要があるものも考えられます。一般人の見地から知る必要がある場合があり、知る権利(憲法21条1項)もあるからです。また、全ての表現行為が犯罪となってしまっては表現の自由を侵害することとなります。そこで、以下の要件を全てみたす場合は名誉毀損行為であっても処罰されないこととなっています(刑法230条の2)。

  1. 公共の利害に関する事実に係り
  2. その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合に
  3. 事実が真実であることの証明があったとき

1.「公共の利害に関する事実」とは、被害者の社会的活動の性質・社会的影響力の大きさを判断基準とするものとされています。具体的には、その職業からなお全人格的な活動が要請される政治家、公務員、医師、弁護士、教授、教師、労働組合役員、公共的事業や独占的色彩のある企業活動、一般大衆を顧客とする事業に関する事項や公衆の健康や生活に関わる事項があげられます。さらに、「公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実」については、捜査官憲に捜査の端緒を与え、世論の監視下におくこととなり、公共の利益と認めることができるので、1.「公共の利害に関する事実」が擬制されます。

2.「目的が専ら公益を図ること」とは、事実適示の動機であり、公益を図ることが主たる動機であったのであれば足りるとされています。具体的には、たとえばインターネット上で「○○は売春行為を行っている」と指摘した場合、一般読者の好奇心の満足を図り興味をそそろうとしたことがその主たる目的と判断できる場合はあてはまらないことになります。
さらに、適示事実が「公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実」である場合は、公務員を選定・罷免することが国民固有の権利であり、その行動は国民の行動の監視下におかれるべきとの考えから、1.公共性と2.公益性が擬制されます(刑法230条の2第3項)。

3.「事実が真実であることの証明があったとき」について、証明の対象は適示された事実であり、噂として事実が適示されたとしても噂の存在ではなく、噂の内容をなす事実の存在が証明の対象となります。もっとも、事実を適示するに際して、取材をするなりして裏をとる努力した上で真実だと信じていたが、実際は真実ではなかった場合もあることが考えられます。この場合は名誉を毀損する故意があったとはいえないでしょう。そこで、判例は、事実が真実であることの証明がなくても、行為者がその事実を真実であると誤信し、その誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるときは、犯罪の犯意がなく、名誉毀損罪は成立しないとし、3.の要件を緩和しています。では、どれくらいのものが確実な資料・根拠といえ、相当な理由があるといえるかが問題となります。最高裁の判例では、自宅で開設したインターネット上のホームページ内において、フランチャイズによる飲食店の加盟店募集を業とする会社がカルト集団である旨を記載した文章や虚偽の広告を記載している旨の文章を掲載し続け、名誉毀損罪に問われた事案で、商業登記簿謄本、市販の雑誌記事、インターネット上の書き込み、加盟店の店長であった者から受信したメール等の資料に基づいて、適示した事実を真実であると誤信したとしても、確実な資料・根拠に照らして相当の理由があるとはいえないとしています。

被害の態様

近年ではインターネットの掲示板・ブログ・ツイッターやSNS等を通じて誹謗中傷等が容易に行える環境にあり、従来より被害に遭う可能性が増加しているといえます。
警察庁の広報資料によると、平成25年中のインターネットにおける名誉毀損・誹謗中傷等に関する相談件数は、9,425件となっています。

予防・対策

誹謗・中傷は一方的になされますので、被害を事前に回避することが困難な面があると思われます。もっとも、実社会におけるトラブルが原因であることが多いので、ネット上はもちろん、実社会でも安易に個人情報をもらさないようにするべきです。

被害にあったら

インターネット利用者数は、平成26年版情報通信白書によると、平成25年末で1億44万人にのぼります。インターネットに掲示されることは全国民に匹敵する人の目に晒されうることを意味しますので、インターネット上での名誉毀損行為を放置しておくわけにはいきません。
名誉毀損行為を発見した場合行うべきこととして、証拠の保存と加害者に対する制裁としての法的手段の発動が考えられます。

まず、すぐに名誉毀損行為が行われているブログや掲示板の画面キャプチャー及びプリントアウトによる保存を行うべきです。後述の刑事告訴のために必要であり、すぐに削除され名誉毀損行為が行われたことの証拠が隠滅されることを防止するためです。
また、被害者やその代理人は、プロバイダ責任法に基づいてプロバイダ事業者や掲示板管理者などに対してこれを削除するよう要請し、また権利を侵害する情報を発信した者の情報の開示請求ができます。弁護士を通じて行うことが可能です。
次に、加害者に対する制裁として、法的手段として刑事告訴を行うことが考えられます。しかし、捜査機関は犯罪事実を特定できるだけの証拠がない場合や事案が軽微な場合はなかなか受理しないのが現状です。名誉毀損行為を発見したら、まずはご相談ください。

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