業務妨害罪は、虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の業務を妨害した場合に成立し、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科されます(刑法233条後段)。また、威力を用いて人の業務を妨害した場合にも成立します(234条)。
「業務」とは、ある程度継続性を有するものであって、一回性のものは原則として当たらないと考えられます。
「虚偽の風説を流布し」とは、客観的真実に反する噂・情報を不特定又は多数の人に伝播させることをいいます。たとえば、「スーパー『○○』で購入した粉ミルクに異物が混入していた」旨の虚偽の事実をインターネット上で申告すれば、多くの人が自由に知り得るので「虚偽の風説を流布し」たといえます。
「偽計」とは、人を欺罔し、または人の不知、錯誤を利用することをいいます。
量販店のネット通販のサイトに侵入して、勝手に「倒産しました」という文言を改変して掲載して客による購入を断念させた場合は、人の錯誤を利用しているといえるので、「偽計」にあたると考えられます。
「威力」とは、人の意思を制圧するに足りる勢力を使用することをいいます。ネットでの行為ではないですが、デパートの食堂配膳部にニシキヘビをまき散らす行為や、猫の死骸を事務机の引き出し内に入れておき被害者に発見させる行為は「威力」にあたるとの判例があります。
「妨害した」について判例は、現に業務妨害の結果の発生を必要とせず、業務を妨害するに足りる行為があれば成立するとしています。
インターネットにおける表現行為は、手軽に誰でもできるという容易さがあります。また、誰が行っているのかを特定しづらい匿名性があります。さらに、掲載すると削除されるまでいつまでも掲載されるために、時間的制約がなく不特定・多数の人々が自由に閲覧可能な状態になるというような、インターネットの表現行為には特有の特徴があります。
このような環境の中で、わずかな顧客対応の誤りから顧客の不満を招いたり、職場環境の不満から現従業員または元従業員から逆恨みを買う場合や、社会に対して不満を抱いている者の不満の矛先となる場合に、インターネットが利用され、業務妨害行為に発展することが考えられます。
業務妨害行為がなされると、日々の取引行為や株式を上場している会社は株価にダイレクトに反映し会社の経営に影響を及ぼす深刻な事態になりうると考えられます。
業務妨害行為がなされないように予防し、業務妨害行為がなされた場合はできるだけ早く発見し、対処することが重要といえます。
インターネット上での業務妨害行為であっても、原因は実社会におけるトラブルにある場合が多いといわれます。顧客・消費者・従業員等企業をとりまく関係者とのコミュニーケーションが重要となると考えられます。
業務妨害行為がインターネット上でなされると、不特定・多数の人が認識できる状態となりますので、会社の業務遂行上深刻な影響を及ぼす可能性があることからインターネット上での業務妨害行為を放置しておくわけにはいきません。
業務妨害行為を発見した場合行うべきこととして、証拠の保存と加害者に対する制裁としての法的手段の発動が考えられます。
まず、すぐに業務妨害行為が行われているブログや掲示板の画面キャプチャー及びプリントアウトによる保存を行うべきです。後述の刑事告訴のために必要であり、すぐに削除され信用毀損行為が行われたことの証拠が隠滅されることを防止するためです。
また、被害者やその代理人は、プロバイダ責任法に基づいてプロバイダ事業者や掲示板管理者などに対してこれを削除するよう要請し、また権利を侵害する情報を発信した者の情報の開示請求ができます。弁護士を通じて行うことが可能です。
次に、加害者に対する制裁として、法的手段として刑事告訴を行うことが考えられます。しかし、捜査機関は犯罪事実を特定できるだけの証拠がない場合や事案が軽微な場合はなかなか受理しないのが現状です。業務妨害行為を発見したら、まずはご相談ください。